芸術家サロンの記憶を宿す「ゴッホの丘」-三田市広野「アートガーデン」が目指す、静寂の理想郷

更新日:2026年08月03日

三田の地に息づく「アルル」の面影

兵庫県三田市広野。かつて「淡路開拓村」と呼ばれた一角に、一人の洋画家が夢見た芸術の理想郷があります。その名は「アートガーデン」、通称「ゴッホの丘」。ここは、かつて西宮市・夙川で伝説的な喫茶店兼アトリエ「パボーニ」を営んでいた洋画家・故、大石輝一(おおいし・てるかず)氏が、生涯憧れ続けたオランダの巨匠ファン・ゴッホと、彼が愛した南フランスの「アルル」のような芸術の村を日本に作ろうと、自力で開村した特別な場所です。

アートガーデン紅葉

野坂昭如、小松左京、山下清・・・名だたる文豪・画家が集った「芸術家サロン」の軌跡

大石氏が営んでいた夙川の「パボーニ」は、単なる喫茶店にとどまらず、昭和の文化を彩ったそうそうたる面々が集う「芸術家サロン」でした。

野坂昭如、小松左京、山下清など名だたる文豪や芸術家たちが夜な夜な立ち寄り、熱い芸術論を交わしたパボーニは、地域文化の梁山泊(りょうざんぱく)として61年もの歴史を刻みました。大石氏は1960(昭和35)年から、この三田の地でアートガーデンの整備に着手しました。敬愛するゴッホに捧げる記念碑などをこつこつと自力で建設し、開村当時のアートガーデンはかつての夙川のサロンさながらに、大石氏の活動に共鳴する多くの若者や学生たちが集い、大変な賑わいを見せたといいます。1972年に他界された後は、妻の邦子さんがその遺志を継ぎ、一人で夙川のパボーニを守り続けておられました。

その後、1995年の阪神・淡路大震災によって店舗が全壊。大切な場所を失った邦子さんは、心の痛みも重なり、震災から約2年後に大石氏のもとへと旅立たれました。しかし、震災をくぐり抜けたパボーニの貴重な壁画や大石アートの魂は、この三田の地へと確かに引き継がれています。

遺志を継ぐ市民の輪と、今なお残る大石アートの息吹

大石氏が亡き後、その熱い遺志を絶やさないために立ち上がったのが、市民団体「NPO法人さんだアートガーデン」です。現在、同法人の理事長を務める山口武宏さんを中心に、メンバーはこの場所の再生と維持管理に日々取り組んでいます。

敷地内には、今も大石氏の情熱の結晶が大切に保管されています。

 

• 母屋:大石氏が愛したゴッホ絵画の複製画を展示。

アートガーデン母屋

アートガーデン母屋には大石氏が憧れ続けたゴッホの複製画であふれている。

母屋梁

母屋の梁はしっかりとした造りで広々とした空間を醸し出している。

 

• 展示館「Moon Light House」:別棟に佇む館。大石氏が自ら描いた圧倒的な迫力の壁画を展示。

このほか倉庫には展示しきれないほどの膨大な作品群が、今も大切に格納されています。

MoonlightHouse

母屋の外れには大石氏の壁画類を収蔵している「Moonlight House」がたたずんでいる。

ポバーニ

Moonlight House内には夙川の喫茶店パボーニの受付台(当時)が移築されている。

 

• 庭園は美しく管理され、毎年「オープンガーデン」や「さんだまち博」に参加。

地域に愛される景観を維持し続けています。

ゴッホ記念碑

緑の中にひっそりと佇むこの碑は、洋画家・大石氏が敬愛するフィンセント・ファン・ゴッホへの深い憧れと情熱を捧げて建立した、この芸術の園の象徴(シンボル)である。

庭

石畳のテラスには白いテーブルと椅子がさりげなく配置され、主(あるじ)を待っているかのよう。今もこの場所で、大石氏が静かに創作の息抜きをしながら、くつろいでいる気配すら感じさせる。

「静寂と品格」を守るための、持続可能な選択

広大な楽園の維持には「資金の確保」と「管理メンバーの高齢化」という現実的な壁が立ちはだかります。

山口理事長らがここで目指すのは、単なる大衆向けの観光地化ではありません。大儲けをする必要はないからこそ、この場所の「価値」を真に理解してくれる人々に届けたいという強い想いがあります。
今、アートガーデンが最も求めているのは、「この美しい環境を壊さない、上品で心豊かな人々」との繋がりです。
日常の喧騒を離れ、静寂に包まれた環境の中で、五感を研ぎ澄ませて憩う。そんな上質な時間を提供できる場所として、持続可能な運営体制を整えることが今の一番の目標です。

【NPO法人さんだアートガーデンの主な活動内容】

• 芸術と文化の継承:大石氏の迫力ある壁画や作品群の格納・管理、母屋でのゴッホ複製画の展示運営。

• 多様な文化イベントの企画:緑豊かな庭園や竹林を活用した、屋外限定ランチ、個展、句会、音楽会、お菓子クッキング教室などの開催。

• 地域に愛される景観の維持:毎年開催される「オープンガーデン」や「さんだまち博」への参加、芝生の造成、四季折々の美しい庭園管理。

無限に広がる「憩いの空間」の使い道

美しく管理された庭のほか、春には立派なタケノコが収穫できる広大な「孟宗竹(もうそうちく)の竹林」など、アートガーデンには豊かな資源が眠っています。この空間と「静寂・品格」を掛け合わせることで、以下のような多様な活用法を企画中です。

• 大人の隠れ家イベント:近隣レストランとコラボした、静かな緑の中での「限定屋外ランチ」

• アートと文化の継承:大石氏の壁画に囲まれた空間での「個展」「句会」「音楽会」

• 心身を癒やす体験:竹林の静けさを味わう「ハイキング」や、丁寧な「お菓子クッキング教室」

【運営サポーター募集】アートがつなぐシニアの新たな居場所

慌ただしい現役時代を終え、これからの時間をどう豊かに過ごすか。「アートガーデン」には、あなたの知的好奇心を刺激する出会いが詰まっています。単に芸術を鑑賞して憩うだけでなく、これまでの人生経験を活かし、活動を支える「運営サポーター」として一歩を踏み出してみませんか?

【募集する運営サポーターの具体的な役割】

• 来場者のご案内・受付:母屋や展示館「Moon Light House」を訪れる見学者を温かく迎え、作品や歴史の魅力をお伝えするガイド。

• イベントの運営・補助:個展や音楽会、屋外ランチなどのイベント時に、会場設営や参加者のサポート。

• 庭園の美化・維持管理:美しい景観を次世代につなぐため、草花のお手入れや、竹林の間伐・竹炭への再利用といった環境づくり(未経験者も大歓迎)。

あなたの「好き」や「知りたい」という気持ちが、地域に眠る芸術の理想郷を支える大きな力になります。かつての文化人たちが夜な夜な語り合ったように、シニアのみなさんも、人生をさらに豊かにする新しい物語を紡いでみませんか。

問い合わせ先

NPO法人さんだアートガーデン

所在地:三田市中内神字蛇谷705-1

※見学やイベント(上記のほか新たなご提案も大歓迎)をご希望の方は下記までご連絡ください。

連絡先:080-3274-9788(海野)まで。

油絵画材

Moonlight Houseの一角には大石氏が使用していた油絵画材が陳列されている。

母屋庭

母屋前にある庭とその向こうには孟宗竹がうっそうと茂っている。孟宗竹はシルバー人材センター作業員が定期的に間伐し竹炭等に再利用。

MoonlightHouseBell

裏門近くに青銅鐘が吊るされ鳴らされる時を待っている。

アートガーデン庭

子供たちが裸足で走り回れるようにと芝生を造成中。